防災・災害支援の取り組み

大分大学福祉健康科学部長・教授 衣笠 一茂
(大阪しあわせネットワーク スーパーバイザー・講師)

大阪府社会福祉協議会では、平成23年3月11日に発生、未曾有の被害をもたらした東日本大震災においては、会員法人・施設から被災地に対する義援金と災害支援活動資金を拠出し、「生活困窮者レスキュー事業」で培ってきたコミュニティソーシャルワーカーの実践を活かし、被災地の避難所や仮設住宅、みなし仮設住宅などにおいて、被災された方々に寄り添った支援活動を展開してきました。

震災から7年。大分大学福祉健康科学部長・教授 衣笠 一茂氏(大阪しあわせネットワーク スーパーバイザー・講師)に岩手県釜石市・大槌町を訪問いただき、被災地復興支援とコミュニティソーシャルワークについてご報告いただきます。

はじめに


城山公園からの風景

筆者は、これまで大阪府社会福祉協議会が関わってきた東日本大震災の被災地復興支援について、主に岩手県釜石市と同大槌町と関わりながら、活動を展開する機会を得てきた。この度、大阪府社会福祉協議会からの要請があり、4年ぶりに被災地を訪問するにあたって、確かな復興の槌音が聞こえつつも、なおも解決されない「生活再建」の実情に直に触れるという貴重な経験をすることができた。

そこで、この度の現地の訪問を踏まえ、被災地復興に向けてどのようなとりくみが求められるのか、またコミュニティソーシャルワークに関わるものとして、その実践にどのような役割が求められるのかについて、筆者の考えを述べていきたい。多くの方々にご意見いただければ幸いである。

被災地訪問


仮設商店の様子

平成30年6月21日の午後にいわて花巻空港に到着し、レンタカーで現地に向かう。花巻から釜石を超えて盛岡に向かって高速道が延びていて、7年前のことを思うと空港から釜石市・大槌町へのアクセスは格段に便利になった。こんなところからも、三陸の被災地のインフラ整備が進んでいることが窺える。

釜石市内に入ると、それでも仮設住宅は所々に残っている。しかし集合住宅だけでなく、世帯向けと思われる戸建ての震災復興住宅もそこここに見られ、順調に建設が進んでいる様子が散見された。また、釜石市は2019年に開催されるラグビーワールドカップ日本大会の開催地に指定されていて、私たちが訪問した鵜住居地区には立派なスタジアムが建てられて、被災当初に流されてしまった三陸鉄道も新たに軌道が敷設され、大槌駅や鵜住居駅も開業寸前、といった様子であった。

また、大槌町を走行中に見慣れぬ風景だな、と思いクルマを駆っていると、なんと巨大な防潮堤の上に道路が敷き直されていて、海側の風景が一変しているのだった。思わずクルマを停めてその防潮堤を見上げたが、その巨大なコンクリートの構築物の質感は圧倒的で、あの津波が人々にどのような恐怖を与えたかが分かるような気がした。映像で有名になった城山公園からの風景でも、学校や病院と言った公共の建物が整備され、徐々にではあるが確実に街はその姿を取り戻して言っているように、最初は感じられた。


建造が進む巨大な防潮堤

「暮らし」の再建に向けて

しかし、徐々に私はそうした風景に違和感を覚えるようになる。確かに道路はできた、建物もできた、巨大な防潮堤もできつつある。震災復興住宅も整備され、これから新しい「暮らし」が始まろうとしているこの被災地において、これだけクルマを走らせても「人々」の姿をほとんど見かけなかったのは、なぜなのだろうか?

鵜住居地区仮設住宅サポートセンターを運営する、社会福祉法人愛恵会 養護老人ホーム五葉寮施設長の石田正子氏によると、今も点在する仮設住宅は、今年度一杯で全閉鎖になると言う。つまり,現在仮設で暮らしている人々は全て震災復興住宅に移転することになり、そこで新しい「暮らし」が始まるが、課題はそこで新しい人々のつながり、つまり「コミュニティ」をどのように再構築するかであると話される。

「仮設住宅を出た後の復興住宅のキャパシティはもう足りているのですが、そこで新しい『暮らし』をどのように営んでいくのか、その姿が見えない。サポートセンターも閉鎖されますが、復興住宅にもこのような『集い』と『きずな』を創ってゆくとりくみが求められると思うので、私たちの法人でもサポートセンターを違った形で震災復興住宅に残すことができないか、釜石市とも議論をしています(石田氏)」。


整備が進む復興住宅

建物ができ、ご飯が食べられ、トイレに行けてお風呂に入れる、だけで「居場所」が確保されるわけではない、と石田氏は言う。そこにはヒトとヒトとの関わりやきずなが必要で、それはとりもなおさず「地区」ではなく「地域」という共同体の再生にほかならない。ならば、道ができ建物ができ防潮堤が建てられたこの街で、いかにして地域の「きずな」を取り戻してゆくことが出来るか、と言うことが、本当の復興の課題ではないだろうか。それは,恐らく「コミュニティソーシャルワーク」と呼ばれる実践を必要とする課題であろうし、「地域の暮らし」の再生に向けて、「関わりあいを紡いでいく」ソーシャルワーカーの出番は、まさにこれからであると考えるのである。

結びにかえて

まるで鉄道模型のようにキレイに区画された街並みを見ながら、そこに「暮らし」の息吹が感じられないのは、本当の意味で津波が奪っていった「関わりあい」や「きずな」が、まだ再構築されていないからでは無かろうか。「忘れないで欲しい」とおっしゃった現地の方々の声を心に刻みつつ、「生活困窮者のレスキュー」の本来の意味を、改めて考えさせられた訪問だった。

 本当の意味での「暮らしの復興」は、まさにこれからである。


執筆者紹介

衣笠一茂(きぬがさ かずしげ)

1966年滋賀県生まれ。
同志社大学大学院文学研究科社会福祉学専攻博士課程後期退学。博士(社会福祉学)同志社大学。社会福祉法人聖徳園在宅介護支援センターソーシャルワーカー、西南女学院大学保健福祉学部助手、九州看護福祉大学看護福祉学部助教授を経て、2003年4月より大分大学教育福祉科学部・大学院福祉社会科学研究科准教授、2011年4月より同教授。2016年4月に新設された、大分大学福祉健康科学部初代学部長に就任。

専 攻:
社会福祉理論・思想、ソーシャルワーク実践論
研究テーマ:
ソーシャルワークの「価値と主体性」に関する研究(平成20〜22年度科学研究費採択研究)、基礎自治体レベルにおける「コミュニティ・エンパワメント」の技術開発についての実証的研究(平成23〜25年度、27〜29年度科学研究費採択研究)、高齢者の健康とQOLを維持する地域環境の整備についての研究〜バイオ・サイコ・ソーシャルモデルの融合を目指して(平成30〜32年度科学研究費採択研究)など

主 著(近年のもの):
『相談援助の基盤と専門職』(分担)ミネルヴァ書房、2008年、『人間の尊厳と自立』(共著)ミネルヴァ書房、2009年、『新しいソーシャルワークの展開』(共著)ミネルヴァ書房、2010年、「回復期リハビリテーション病棟におけるソーシャルワーク実践の原理についての実証的研究」(単著)『ソーシャルワーク研究』相川書房、2011年。『社会福祉法人だからできた、誰も制度の谷間に落とさない福祉』(共著)ミネルヴァ書房、2013年。 『ソーシャルワークにおける「価値」と「原理」〜実践の科学化の論理構造』(単著;2016年度日本ソーシャルワーク学会「学術奨励賞」、損保ジャパン日本興亜福祉財団「2016年度大賞」受賞)ミネルヴァ書房、2015年。 “The Care Policy(eds.)” Daegu Uniersity Press, Korea、2016年。『よくわかる地域包括ケア』(共著)ミネルヴァ書房,2017年。 『ソーシャルワークは何を実現しようとしているのか〜実践の科学化を目指して』(単著)ミネルヴァ書房,2018年出版予定。

社会活動:
大分県老人保健福祉計画策定委員会委員、大分県子ども家庭支援推進会議推進委員、大分県福祉保健部地域福祉推進室「コミュティ・エンパワメント実験事業」スーパーバイザー、大分県社会福祉協議会総合計画策定委員長、大分県社会福祉協議会「くらしサポート事業」運営委員、福岡県社会福祉協議会「ふくおかライフレスキュー事業」スーパーバイザー、宮崎県社会福祉協議会「ライフサポート事業」運営委員、大阪府社会福祉協議会「大阪しあわせネットワーク」スーパーバイザー等


防災・災害支援の取り組みトップへ