生活に関する相談と支援

前田久雄さん(70歳代)は定年後、アルバイトをしながら、妻と二人で生活をしていた。収入は月に20万円の年金とアルバイト代で、贅沢をしなければ十分に暮らしていける額であった。妻も、内職をしていたので、不自由ない生活ができるはずだった。


ところが、道路を挟んで向かいの家に住んでいる前田聡さん(息子)がお金の無心をするように。聡さんは、妻と子どもの3人で生活していたが、妻は過去に消費者金融で多額の借金をし、自己破産をしたことがあった。さらに現在は、妻が聡さんの名義で消費者金融に多額の借金をし、その返済に苦労している様子であった。聡さんは就労しており一定の収入はあるが、それでも足りず、夜のアルバイトをしている。聡さんは妻から熱湯をかけられたり暴力を振るわれたりしたこともあった。

最初は、前田さんも息子世帯に対して支援をしていたが、今は逆に、聡さん夫婦が頻回に前田さんの家までお金を取りに来る。一度来ると、お金を渡すまで居座り、また、昼間に居留守をつかっていても、夜に電気がつくのを見計らって来るようになっていった。そのうち、だんだんと聡さんからのお金の無心はエスカレートし、お金を出さないと大声を出されたり、暴力を振るわれたりするようになってきた。

前田さん夫妻は、聡さんの取立てに怯え、居留守をつかって生活をするようになった。しかし、夜昼かまわずメールや電話でお金の無心があり、また、大声を出しながら玄関ドアを叩いたりされるため、近所からも苦情がくることも増えてきた。

聡さんの取立てが激しくなり、精神的にも追い詰められ、前田さん夫妻は、警察に行き、相談した。相談を受けた警察は、経済的・身体的虐待と判断。自宅に戻るのは危険なため、その日は警察に泊めることにし、前田さん夫妻には早い段階での転居を勧め、行政の高齢福祉課に連絡をとった。前田さん夫妻には充分暮らしていけるだけの年金があり、生活保護は該当せず、また、現金を少し持っていたことから、行政での経済的な面での支援は困難であった。そのため、「生活困窮者レスキュー事業」に連絡が入った。

翌日、前田さん夫妻がCSWのいる施設へ相談に訪ねてきた。対応したCSWは、前田さんの気持ちに寄り添いながら、じっくり時間をかけて今の状態と夫妻の想いを聞いた。その月の年金はほとんど息子の聡さんに渡してしまい、今は数万円しか手元になく、転居をするにあたっての火災保険や仲介料を支払えない状態であった。貸付制度の利用も検討したが、高齢のため、保証人が必要であり、息子に連絡を取ることができないため、無理な状態。早急な転居が必要なため、転居費用等を生活困窮者レスキュー事業として支援することになった。

転居先は、自宅から少しでも遠いところが良いこと、前田さんの通勤が出来る範囲であることなどを考慮し、相談の上で現在住んでいる市とは別のA市になった。CSWは社会貢献支援員、引越し先のCSWに連絡をとり、今後は連携して対応することとした。そして、A市内の物件を前田さんと一緒に見に行き、決定。転居に関しては、軽自動車をレンタルし、必要最低限の身の回りのものだけを持って引っ越すことにし、それまでの間は、ネットカフェでしのいでもらうことにした。

転居は、前田さんが相談した警察や高齢福祉課の担当者の立会のもと行われた。CSWは転居後の見守り体制を整えるため、転居先のCSW、民生委員・児童委員、地域包括支援センター、A市高齢介護課にも連絡をとり、カンファレンス(会議)を実施し、それぞれの担当者を前田さんに紹介、緊急時の連絡先を確認して、今後の見守り体制づくりも行った。また、社会貢献支援員は、生活に必要な炊飯器等の電化製品について、施設職員や地域関係者から寄贈いただいたリユース可能なものを前田さんに届けるなどし、新しい地での生活を支援した。

前田さんは、携帯の番号を変更、また、通勤経路等も息子に会わないよう工夫するなどし、転居先で落ち着いて生活することができるようになった。翌月の年金も入り、経済的にも安定。夫婦で安心して暮らせる状態に戻りつつある。

世帯の状況/キーワード

【世帯の状況】
本人:70歳代/男性/息子夫婦からの虐待
妻 :60歳代/内職/

【キーワード】
高齢世帯/虐待/寄り添う/転居支援

主な支援内容

□高齢担当部署等の専門機関との支援方針の相談・調整
□ご本人の気持ちに寄り添った相談支援活動
□転居する際の不動産屋等への同行
□転居先の支援ネットワーク構築のための関係機関との連絡・支援方針の相談・調整
□経済的援助(転居に要する費用)
□物品支援(炊飯器や暖房器具など)



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