生活に関する相談と支援

渡辺裕子さん(50歳代)は十数年前に離婚後、マンションで一人暮らしをしていたが、近隣住民とのトラブルから精神的負担も大きく、数か月前に現在の一戸建て住宅へ引越してきた。精神的負担から体調が悪化し、2年近く続いていた調理補助の仕事も欠勤が続き、退職することに。別れた元夫からは月に5万円の仕送りがあったが、最近では振込が遅れがちになってきている。一戸建て住宅の家賃は65,000円で、調理補助の仕事を退職した時点では副業である内職仕事の収入が頼みだったが、内職仕事も最近では少なくなってきており、安定収入とまではいかない。それでも、わずかでも収入を得るためには無理をしてでも内職を続ける必要があり、細かい作業を伴うため心身ともに負担となっている。ついには渡辺さんの所持金は1,000円を切ってしまった。体調不良だが、通院すらままならない状況まで追い込まれてしまったのである。

渡辺さんは、まず役所に相談し、そこから社会福祉協議会の貸付相談にたどり着いた。しかし、体調も悪化してきた中での不安定な内職仕事では安定的な収入も見込めず、調理補助の仕事も退職したばかりであったため、就労収入が見込めないため貸付不可、というのが窓口での相談結果であった。社会福祉協議会の貸付担当の職員も話の中から相当に困窮している状況は確認できていたが、貸付要件を満たさないためその場ではどうしようもなかった。そこで、渡辺さんは役所に再度相談したところ、「生活困窮者レスキュー事業の社会貢献支援員へ相談してみては?」と紹介を受け、その翌日には社会貢献支援員とCSWと面談することとなった。

渡辺さんの自宅を訪問した際には、すでに所持金が1,000円を切る状況にあった。これまでの生活歴を伺い、以前に住んでいた住居での近隣住民とのトラブルから精神的にかなり追い詰められ、仕事にも行けなくなって辞めざるを得なかったこと、借金もあり生活は苦しく、甲状腺の病気や自律神経失調症の治療のための通院費用や薬代にも困っている生活状況が確認された。当面の食生活や通院費用などを経済的援助による支援を行うこととし、体調を整えながら仕事を探すサポートを行うこととした。

履歴書に必要な写真はCSWの施設でデジカメで撮影したものプリントアウトして使用してもらうことに。また、就職活動にも役立ててもらうように施設で寄贈を受けて保管していた自転車を後日渡辺さんにお渡しすることとした。ハローワークの登録もまだであったので手続きのアドバイスを行うとともに、住所地周辺での求人情報をあつめて教えたり、福祉施設での求人情報などもあわせて伝えた。

その後、CSWや社会貢献支援員が関係する老人福祉施設での求人の面接を調整し、月約4~5万円のパート就労に結びつけることができた。働き始めた当初は身体も慣れず、休みがちであったが、渡辺さんの体調面に配慮し、調子を崩すことが多い時間帯から別のシフトで勤務できるように配置転換が行われた。異動先の人間関係が渡辺さんには合い、徐々に表情に明るさが甦ってきた。異動先での時給は以前よりも低くなってしまったが、職場環境の良さもあって渡辺さんも仕事を頑張って続けていこうと思えるようになっていった。渡辺さんは「手持ちの現金がほとんどなくなった当時は本当に苦しかった。人に迷惑をかけてはいけない、という気持ちで必死だった」と当時を振り返る。

就職支援に並行して、滞納気味であった家賃についても経済的援助による支援を行った。さらに、自立支援医療(精神通院医療)に関する情報提供を行い、渡辺さんに相談に行ってもらうように後押しした。このように、行政の障がい福祉担当部署とも連携して安心して治療を継続できるように支援を行った。

内職仕事の収入と施設でのパート収入で渡辺さんの生活は一定の落ち着きをみて、更に職場の友人たちにも恵まれ、気持ちにも少しずつ余裕が生まれてきた。そんな生活が2年続く。

しかし、渡辺さんの生活は再び窮地に追い込まれて行った。内職仕事が不況のためにいよいよ不振になり、遂に内職仕事での収入が見込めなくなってしまった。施設でのパートは続けていたのでその収入はあったが、生活は苦しさを極めた。風邪を引いて高熱が出ていても、財布に数百円しかないことを思うと、受診もできず布団の中で治まることを待つしかない日もあったという。

そこで渡辺さんは再びCSWに相談した。その窮状を目の当たりにしたCSWは、生活保護の相談も必要ではないか、と判断し、CSWや社会貢献支援員から「自動車を売って、生活保護の相談をしましょう。渡辺さんが仕事して頑張っていこうという姿勢はとても大切で、安心して仕事を続けていくためにも、努力してもどうしても足りない生活費については行政に相談してもいいんじゃないかな」と提案し、渡辺さんも仕事に取り組む姿勢を評価されたことを嬉しく感じて、生活保護申請を行うことにした。

生活保護受給が決定し、ようやく生活の安定の目途もたち、安心して仕事と治療を行う環境が整った。

それからしばらくして、渡辺さんから「仕事先までの通勤が遠いので、もう少し近ければよいのだけれど」と、CSWや社会貢献支援員が相談を受けた。勤務には、交通の便がよくなく、足の調子がよくないため自転車で毎日通勤するには厳しくなってきていた。そこで、社会貢献支援員は生活保護ケースワーカーに、勤務先の近くへ引越できるように相談した。通勤できないためにやっと慣れてきた仕事を継続できなくなって収入が絶たれ、全てを生活保護で賄うよりも、引越を行政としても必要と認めて就労継続してもらう方が、本人の自立支援にとっても理に適うため、引越先を探すことに。社会貢献支援員やCSWが仕事先の近くの物件探しを手伝い、無事に引越することができた。

それから数年が経過する現在も、渡辺さんは施設での仕事を元気に続けている。職場の仲間にも恵まれ、大事な仕事を任されることでさらに仕事のやりがいを実感し、いきいきと活躍している。「できるだけ仕事を続けたい。職場ではおしゃべりできるし、いろんなことを教えてもらえる。体調を気遣ってもらえることが嬉しい。職場の同僚と過ごす時間が本当に楽しい。引越してきて数年経つが、街の中で知らないところもたくさんある。体の調子がよいときには自転車で出かけたい。職場の同僚と街の名所などを散策したい」と笑顔で渡辺さんはこれからの抱負を語った。

世帯の状況/キーワード

【世帯の状況】
本人:50歳代/女性/自立神経失調症

【キーワード】
失業/就労支援/生きがい・働きがい/エンパワーメント

主な支援内容

□ 食生活の支援(食費、光熱水費の経済的援助)
□ 通院経費の支援(経済的援助)
□ 自立支援医療や就職情報等の提供(本人に選択して、動いてもらう)
□ 就労支援(老人福祉施設での就労へのつなぎ+継続的な相談・サポート)



生活に関する相談と支援トップへ