生活に関する相談と支援

中学生の高橋洋一さん(仮名、10歳代)。小学生のときに母が失踪して以来、父と姉と兄の4人で生活してきた。父は運送業をしていて、家にいないことも多かった。親戚付き合いもなく、頼れる人もほとんどいなかった。不安定な家庭環境・経済状態であったため、姉と兄は中学を卒業後、就労。仕事と家事をこなしながら、家族を支えてくれていた。


洋一さんは、家庭環境のことや、体格が小さいことなどから、激しいいじめにあったりもしたが、強くなりたいという気持ちでスポーツをはじめ、いじめに負けることなく通学。家族で支えあいながら暮らしてきた。

洋一さんが中学に入るころから、父が「誰かに狙われている」というようになった。その後、父の精神状態はだんだんと不安定になり、あらゆるものが自分と家族を攻めてくるように考えるようになり、幻覚や幻聴もみられるようになった。一日中妄想に悩まされ、仕事も行けなくなってしまい、失業。姉と兄の収入で生活するようになった。

「家族が危険にさらされている」という父の妄想から、家族は頻繁に引越しを繰り返し、生活の拠点は安定することがなかった。夜中に突然、「家にいては家族全員が襲われる」「危ないから家を出る」と、寝ている洋一さんたちを起こし、家族全員で公園に行き、一晩中歩きながら過ごすこともあった。

危険だからということで、姉の勤務先にも父がついてきて、連れて帰ろうとしたり、つきまとい行為を繰り返し、結果、姉も仕事を失なうことになってしまった。家族は兄の月給である6万~8万円で生活をしなければならなくなってしまった。

中学三年生ということで、洋一さんは転校の手続きをとらず、自宅から自転車で片道90分近くかかる距離にある中学校まで通っていた。姉と兄は、自分たちが高校に行けなかった分、弟には高校に行って欲しいと強く望んでいた。洋一さんも高校進学を希望していた。

洋一さんの担任の先生は、洋一さんの家庭環境や経済状態を気にかけてくれていたが、兄の収入だけでは、高校受験料の支払いにも困る状態であり、高校受験のための書類等も全く提出されていない状態であった。このままでは高校受験ができないと、保健所の保健師に相談したことがきっかけで、「生活困窮者レスキュー事業」として、関係機関とともに家族の生活全般の支援をしていくこととなった。

連絡をうけ、保健師とCSWとが早速訪問をした。洋一さんは、長屋風の集合住宅の2階に住んでいた。部屋は乱雑で、ものが溢れる中に、石油ストーブがあり、その上にやかんを置いてお湯など沸かしているとのことだった。寝るときは、その部屋に布団を敷き、家族四人が重なり合って寝るという。火災がおきるのではないかと心配になるような状態であった。

状況を確認し、現在の様子や、困っていることなどをさらに詳しく聞きとり、当面の食材と、家賃の一部について支援を行おうとしたが、父が「帰ってくれ」と、頑なに支援を拒否。激しい興奮もみられ、会話も成り立たない様子であったため、最初の訪問時は、帰る間際、姉に食材を隠れて少し渡すことでしか支援ができなかった。

それから、CSWは、主に家事を担っている姉を窓口とし、支援をはじめた。姉は父に隠れてCSWと携帯で連絡を取り合い、家の状態などについて教えてくれた。かなり倹約した生活をしているが、食材もほとんどなく、米にも困り、家賃や公共料金の滞納もあるとのことだった。

そこで、すぐに生活保護の申請手続きをおこなった。洋一さんが持って帰った高校進学のための書類も、家族の誰もが煩雑な書類を理解できず、そのままの状態であったので、手続きをとるべく書類作成をサポートし、進学のための貸付等についても手続きができないか話を進めていった。また、保健師は、時間をかけて少しずつ父の精神科への受診について働きかけていった。

医療受診へのつなぎや就学支援、経済面での支援など複合的な問題を生じているケースのため、生活全体への支援が必要だとCSWは判断し、民生委員や大家などにも協力を依頼し、生活全体を支えていくようマネジメントをおこなっていった。

生活保護は翌月から支給が開始され、家族の生活は少し楽になった。高校進学についても、提出書類等がなんとか間に合い、貸付も受けられるようになったが、父の受診についてはなかなかうまくいかなかった。父は、洋一さんが危険だといい、中学校へ歩いて行き、連れて帰ろうとすることもあり、授業にも支障をきたしていた。高校受験は、父の妨害なく受けられるよう、学校や保健所、生活保護ケースワーカーなど関係機関と連携のもと、前日はホテルに子どもたちだけで宿泊し、受験に備えた。

その甲斐もあり、洋一さんは無事に高校受験に合格。本人が希望していた高校で、現在は元気に通学をしている。姉と兄も、自分たちが行けなかった高校に弟が入学できたことを、嬉しく、誇らしく思っている。

父も、保健師などからの粘り強い受診の勧めもあり、精神科に通院できるように。統合失調症との診断が出た。また、洋一さんが高校に進学したことを非常に喜び、精神状態が大幅に回復。後日、洋一さんとともにCSWの施設までお礼を言いに来られるほどになった。現在は、落ち着いた生活を送っている。CSWは、現在も関係機関と連携しながら、家族の生活を見守り、サポートを行っている。

世帯の状況/キーワード

【世帯の状況】
本人:10歳代 中学生。
父:40歳代 男性 失業、精神疾患、被害妄想、幻覚。
姉:20歳代 中学を卒業後、就労していたが、失業。
兄:10歳代 中学を卒業後、就労中。

【キーワード】
精神障がい、失業、生活保護申請中

主な支援内容

□家庭訪問・相談によるサポート活動(生活相談、高校入学の書類手続きなど)
□生活保護への同行相談
□関係機関と連携しながらの生活全般におけるマネジメント
□経済的援助(食材費、家賃など住居関係費、日用品費、宿泊費)



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