生活に関する相談と支援

森山晃一さん(仮名、10代後半)は幼少時に父親を亡くし、母親と兄弟3人の母子家庭で育った。母親は精神疾患のため就労が難しく、生活保護を受給して暮らしていた。不登校の兄弟や高校を中退した兄、数回にわたる転校と、子どもたちをめぐる養育環境は決してよいとは言えない状態だった。晃一さんも児童養護施設で数年間生活した経験があるという。


晃一さんは中学校卒業後、高校進学せず、飲食店や服飾関係などの仕事など、いくつかアルバイトしたが、どれも1週間から数か月と長続きはしなかった。そんな折に、晃一さんと同居家族の関係が悪化し、母親と兄弟は家を出ていき、一人残されることに。近隣の親戚のところへ助けを求め、同居させてもらうことになったが、親戚の男性は日雇い労働者で晃一さんの生活の面倒を十分にみてあげられるほどの余裕はないとのこと。暮らしぶりを尋ねると、「寝泊まりはでき、銭湯代と携帯代をもらえたが、食費も就職活動するためのお金もなかった。時々、インスタント食品をもらって食べた」とのことだった。

親が生活保護を受給していたこともあって、晃一さんは市役所を訪ね、福祉の相談をしたが、面談の中で働く意欲が低いとみなされ、すぐに行政による支援へとはつながらなかった。そこで、「生活困窮者レスキュー事業」に取り組む社会福祉法人(福祉施設)へ連絡が入ったことがきっかけでコミュニティソーシャルワーカー(以下、CSW)と社会貢献支援員(以下、支援員)による相談がスタートした。

さっそく、CSWと支援員が晃一さんが居候している叔父宅を訪ねると、若者らしく軽く会釈し「どうぞ」と2階へ案内された。家の中は雑然としていて、ふすまも破れ、汚れた布団が無造作に敷かれたまま。食事は昨日から摂っていないらしく、カセットコンロのボンベがもうすぐ切れてしまう、とのこと。フリーペーパーをみて連絡を入れているが採用には至らないとのことであった。幼少期から今の生活に至る経過を尋ねると素直に答える様子を見て、支援員から「なんとかここまでよく頑張ってきたね」と声かけすると、ほっと表情が和らいだ。

CSWと支援員はさっそく施設に帰って支援方針を検討。晃一さんの生活課題としては、①食べ物を買うお金も就職活動費も全くない困窮状態であること、②未成年だが救済すべき支援機関につながっていないこと、③仕事を得ても長く続かないといった点で不安がある。寄り添う人が必要、といったことにあると整理した。そこで、早速、訪問して一緒に買い物にでかけ、「生活困窮者レスキュー事業」による食材支援を行うことに。本人は簡単な料理ならできるとのことであったが、何を買えばよいかも分からない様子であり、献立のたて方や料理方法なども一緒に行うことで、しっかりと食事を摂ることと生活力を身に着けられるよう援助していった。こうした支援を週に1回程度、4ヶ月にわたって支援した。

また、本人の理解者を増やしていくこと、本人が頼れる人や相談機関を見つけてもらうことが必要だと考え、叔父や現在は離れて暮らしている母親にもCSWや支援員からコンタクトをとり、現状について説明し、何かあれば相談にのってもらえるように協力をお願いした。また、近隣の青少年会館や行政の児童相談の担当者らとも相談を行い、情報収集やサポートを依頼した。

晃一さんからも就労に対する意欲が見られたので、本人のやる気を後押しし、自立に向けて相談にのってくれるところを探し、以前に支援員が研修で話を聞いたことがある隣県の自立援助ホームの館長に相談し、本人を連れて相談に行きたい旨を伝え、快く了解してもらう。そこで、数日後に早速、自立援助ホームへ一緒に赴き、相談。晃一さんは「仕事して自立したい。服飾関係の仕事がしたい」と語り、館長からも「働く気があるなら話は早い。これだけコミュニケーションもできるならどこでも就職できる。あとは、どう大人が工夫するかだけや」と励まされた。CSWや支援員はアパートでの一人暮らしはまだまだ不安があることを正直に相談すると「大阪にも自立援助ホームがあるから相談してみたらよいのでは」とアドバイスを受けた。その後、自立援助ホームの見学のための調整や、就労支援機関が主催する就労体験や基礎的な訓練にも参加し、社会経験を積むことで就労準備をしてもらった。この間も、時折、CSWや支援員から晃一さんへ朝一番に電話をして、きちんと訓練に参加できているかどうか、などサポートを続けた。

それからしばらくして、自分で見つけてきた服飾関係の会社に就職が内定。出勤初日に、心配になった支援員から電話を入れると、「寝ていた」とのことであったので、すぐに支度をすませて気を付けて行くように、と送り出した。2週間ほどたって電話で仕事の様子を聞くと「体調が悪くて休んでいる」という。買い物に行けるか聞くと、「無理すれば…」ということであったので、家で静養してもらい、CSWが買い物して食材を届けた。仕事のせいでしんどいのか聞いたが「そうではない」とのこと。あれこれ話を聞いていると「明日は仕事に行こう・・」というので、「しんどいときは社長に相談するんだよ」と伝えた。

その後も、体調不良で仕事を休んだり、仕事が少なくて自宅待機をせざるを得ない日などもあったが、社長さんが食事や交通費のことでいろいろと面倒を見てくれているようでもあり、なんとか仕事は続いていた。近いうちに、会社近隣の寮へ引越させてもらえる予定だとのことであった。
「生活困窮者レスキュー事業」による食材支援も終えて数か月が経過したある日、晃一さんがCSWの勤めている施設を訪問。あいにくCSW、支援員ともに不在であったが「お礼に来た。今は仕事を頑張っている」ということを伝えに来た模様。後日、晃一さんの携帯に電話したがつながらなかったが、母親に連絡を入れたところ「おかげさまで、今も服飾関係の仕事を続けられている」とのことであった。

世帯の状況/キーワード

【世帯の状況】
本人:10歳代(後半)/男性/中卒/職場を転々としている/居所不安定
叔父:50歳代/日雇い労働

【キーワード】
若者支援/寄り添い/生活力を養う/就労による自立

主な支援内容

□ 子ども担当部署等の専門機関との支援方針の相談・調整
□ 就労支援機関へのつなぎ
□ 本人が信頼できる相談機関(隣県)への同行相談
□ 家庭訪問・相談による生活サポート(買物同行、あいさつ、掃除、料理など)
□ 経済的援助(食材支援、面接の交通費、就職後の通勤費の一部)



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